編集後記

13.編集後記
…以下は…第三部の『 戦後篇 』へ続いていく…。

 昭和六十二年十月に第一回を発表した旧著『流浪奇談』は、当初…上下二巻だったが、内容をより明確に表現したいと思い、今回…『出征篇』『敗戦篇』『戦後篇』の三部作としたが、この他に…第二部を特別に『敗戦奇談・大陸哀譜』として編集したのもある。
 各篇は…約百三十ページだが、上記の『大陸哀譜・激動流転篇』だけは番外である。
…内容は…史実を参考にして繋いでいるから、部隊名、地名等は実記しているが、私を巡る波瀾万丈のストーリーと、登場人物には…後日異議不服を唱える人と…紛争が起こ らぬようにと脚色を施している…。

…私が入隊した昭和十八年三月から、約一年間の中支戦線と、その後の「湘桂作戦」…。そして…上海沿岸防備作戦の準備途上から終戦までの忘れられない逸話の数々…。全ての兵隊が意見を差し挟む自由が許されなかった時代、命令一下…。さまざまな事件に巻き込まれ、血の滲む苦労をしたのは紛れもない事実のことである。
 此処に記されているのは…歴史的な物語りとして理解されんことを願う次第である。…トセ会に参集するたびに聞く元戦友諸氏の訃報には断腸の想いである。
 生き残っていることは必ずしも喜べないものであると自覚している…。
 私の初年兵当時の「荒張班長」が平成四年六月末に七十六歳で逝去してからは…トセ部隊の交交の思い出が俄に遠退いてしまった。                    
 …特に淋しく感ずる理由の一つとして…、五十年前、私達がまだ血気盛んな頃に…あれ程の激戦を経験した筈の同年兵諸氏に殆ど再会して居ないことが…(これは同年兵の人員数が最初から少ないので)…どうしても先輩の元戦友諸氏や…元班長の荒張氏と昔日談を交わすしかなかった「トセ会」の席上で…懐古談に花を咲かせた老戦友が一人、二人と…この世を去ったことを知る度に…胸を締め付けられるような辛い想いに苛められる……。再起を誓った復員兵の一人として努力した心算だった…戦後の生活には、私が関わった女性の何人かが見え隠れして…殺伐な生存競争に彩りを添えたようだが、四十数年を経過すれば…それは必死に生きる課程での小さなあがきでしかなかったような気もする…。当時の混沌とした市井の片隅にうごめいていた無力な男と女の生きざまなども、何れは濃密な物語りとして…書き遺して置きたい…。…実録「独立野戦重砲兵第十五聯隊」(通称トセ部隊)の原隊『野戦重砲兵第八聯隊』 その二十三年の経歴を再探求して往時を偲ぶと共に、中支の…あの「湘桂作戦」に重点を絞り…その他…各地で闘った『トセ部隊』九年間の行動記録や、昭和十七年以後の若い兵士らが辛うじて生き延びた「戦闘の苦衷」などを…、諸氏とともどもに回顧しながら、人生を述懐し…静かに、心ゆくまで…「老」を味わいたいものである…。
                      一九九四年八月    編集者 保科 博

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