編集後記

10.編集後記
…以上 この『戦後編』で『流浪奇談』は完結である…。……………………。昭和六十二年十月に第一回を発表した旧著『流浪奇談』は、当初…上下二巻だったが、内容をより明確に表現したいと思い、今回『出征編』『敗戦編』『戦後編』に分割し、三部作として再編集した。各編共一冊は約一三十ページ、本文ページ別(片面)の字数は平均七百字である。史実を参考にしているので、部隊名、地名等は実記しているが、私を巡る波瀾万丈のストーリーと人物像には後日異議を唱える人と紛争が起こらぬように脚色をした。…私が入隊した昭和十八年三月から、約一年間の中支戦線と、その後の湘桂作戦。そして…上海沿岸防備作戦の準備途上から終戦までの忘れられない逸話の数々…。全ての兵隊が意見を差し挟む自由が許されなかった時代、命令一下…。さまざまな事件に巻き込まれ、血の滲む苦労をしたのは紛れもない事実のことである。此処に記されているのは…歴史的な物語りとして理解されんことを願う次第である。…トセ会に参集するたびに聞く元戦友諸氏の訃報は断腸の想いがする。生き残っていることは必ずしも喜べないものであると自覚している…。私の初年兵当時の「荒張班長」が平成四年六月末に七十六歳で逝去してからは…トセ部隊の交交の思い出が俄に遠退いてしまった。特に淋しく感ずる理由の一つとして…、五十年前、まだ血気盛んな頃に…あれ程の激戦を経験した筈の同年兵諸氏に殆ど再会して居ない私は…(これは同年兵の人員数が最初から少ないので)…どうしても先輩の元戦友諸氏や…元班長の荒張氏と昔日談をするしかなかった。「トセ会」の席上で…懐古談に花を咲かせた老戦友が一人、二人と…この世を去って行ったことを知る度に…胸を締め付けられるような辛い想いに苛められる……。再起を誓った復員兵の一員として努力した心算だった戦後の生活中には私が関わった女性も何人かが見え隠れしていたようだったが、四十数年を経過すれば…それは生きる課程での小さなあがきでしかなかったような気もする…。混沌とした市井の片隅にうごめいていた無力な男と女の生きざまを、何れ濃密な物語りとして…書き遺して置きたい…。…実録「独立野戦重砲兵第十五聯隊」(通称トセ部隊)の原隊『野戦重砲兵第八聯隊』 その二十三年の経歴を再探求して往時を偲ぶと共に、中支の(就中、世紀の大決戦だったあの湘桂作戦に重点を絞り)その他…各地で闘った『トセ部隊』九年間の行動記録や、この私が大きく関連する…昭和十七年以後の若い兵士らが味わった苦衷の体験などを、諸氏とともどもに回顧しながら、僅少の老後を静かに全うしたいものである…。

                     一九九四年八月    編集者 保科 博

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